放っておかないで!【運動器不安定症 】— 誰でもできる予防と治療

 この記事では「運動器不安定症(うんどうきふあんていしょう)」についてご説明します。ご家族のおじいさま・おばあさまが人生の晩年までできるだけ自立して暮らせるよう、本症の特徴や予防・治療のポイントを分かりやすくお伝えします。高齢者を支えるご家族や地域の方々にもぜひご一読いただきたい内容です。

高齢のご家族がいる方にぜひ知っていただきたい疾患です。

目次

運動器不安定症とは

 運動器不安定症とは、高齢化に伴ってバランスや移動(歩行)能力が低下し、外出の減少や転倒リスクが高まる状態を指す疾患名です。

この概念は2000〜2010年ごろに、世界的に運動器の重要性を啓発する動きの中で提唱されました。ここでいう「運動器」とは、骨・筋肉・関節・神経など、身体を動かすために連携する器官の総称です。加齢によりこれらの機能は徐々に衰え、身体を動かす力やパフォーマンスが低下していきます。

その結果として、高齢になると下肢の筋力低下などから歩行が困難になり、寝たきりや外出を控えるような「閉じこもり」状態に陥ることがあるほか、転倒による骨折などの重大なけがのリスクも増加します。日本ではこの現象を「運動器不安定症」と名付け、転倒・寝たきり・閉じこもりを未然に防ぐ観点から、保険適用での治療が受けられるよう制度整備が進められています。

これは日本で「要介護者を減らしたい」「健康寿命を延ばしたい」といった社会的な課題に対応するために考えられたものです。運動器が衰えて転倒や寝たきりになると、認知症やメタボリックシンドロームなど別の重い病気につながりやすいため、そうした連鎖を防ぐことも狙いに含まれています。要するに「運動器不安定症」は、転倒や閉じこもりのリスクを下げ、介護が必要になる人を減らし、より長く健康に暮らせるようにするための予防的な考え方を示す新しい病名です。

祖父母には健康に長生きしてほしいです!

運動器不安定症の原因

 運動器不安定症の原因は大きく分けて二つあります。

  • 骨や筋肉、関節など運動器の「老化」
  • 運動不足や長期間の寝たきりなどによる「廃用」

老化は誰にでも生じる現象であり、現時点の医学では完全に防ぐことは困難です。一方で「廃用」は各人の生活習慣によって生じ得るものであり、予防や改善が可能です。

廃用とは、身体の一部や全体を十分に使わないことによって起こる機能低下のことです。使わないことで筋力や持久力が落ち、関節がこわばり、骨密度が下がるなど、さまざまな身体機能が“やせていく”現象を指します。


したがって、運動器不安定症の治療では特にこの廃用の改善に重点を置くことが求められます。また、運動器に関連する疾患としては骨折や変形性関節症などがあり、これらが存在する場合はまずそれらの治療を優先する必要があります。

運動器不安定症の症状

 運動器不安定症では、一般に次のような症状が見られます。

  • 移動歩行能力の低下による外出などの減少
  • バランス能力の低下によるふらつきや転倒

それぞれに解説していきます!

移動歩行能力の低下

運動器不安定症でまず気づかれやすいのは、足の筋力が衰えて歩きにくくなることです。足の力が弱くなると1日の歩数が自然に減り、外出の機会が少なくなることで活動量がさらに落ちる「悪循環」に陥りやすくなります。特に65歳以上の方は下肢筋力が急に低下しやすいため、早めの対策が大切です。

バランス能力の低下

運動器不安定症の第二の症状は、バランス機能の低下です。ここでいうバランス機能とは、主に片足立ちをどのくらい維持できるかという能力を指します。片足立ちの保持が難しくなると、日常の歩行時にふらつきが増えますし、片足立ちそのものができない場合は、小さな段差や階段でつまずいて転倒することが起こりやすくなります。高齢者では転倒が骨折や外傷など重大なけがにつながるため、バランス能力の低下は特に予防すべき重要な項目の一つです。

片足立ちをするときは周囲の安全を確認してから行ってくださいね!

運動器不安定症の診断

 運動器不安定症の診断は基本的に、次の手順で診断が進められます。

STEP
問診

運動器不安定症の第1の症状は、主に足の筋力が低下して歩行が難しくなることです。その影響で、1日に歩く歩数が減り、日常生活では外出する機会が徐々に少なくなっていきます。特に65歳以上の高齢者では、足の筋力が極端に弱くなることがあるため注意が必要です。具体的には、次の2つを中心にお聞きします。

  • 過去や現在に原因となるような運動器に関連する疾患があるか
  • 高齢者の「寝たきり度や介護の状況」を判断するための「日常生活に関する質問」

このように、疾病の有無と日常生活での様子を合わせて確認することで、より正確に診断を進めます。運動器不安定症の診断では、運動機能を低下させる「11項目の疾患」に該当するかを、過去および現在について確認します。

  1. 脊椎圧迫骨折、側弯症・亀背などの脊柱変形
  2. 骨粗鬆症
  3. 膝・股関節・足関節などの変形性関節症
  4. 大腿骨頸部骨折などの下肢の骨折
  5. 腰部脊柱管狭窄症
  6. 脊髄損傷・脊髄症などの脊髄障害
  7. 神経・筋疾患
  8. 関節リウマチなどの関節炎
  9. 下肢の切断
  10. 長期間の寝たきりによる廃用
  11. 高頻度の転倒

また、機能評価基準のもう一つの項目である「日常生活自立度判定基準」に該当するかも確認します。この判定基準は、地域や施設の現場で保健師などが、障害を抱える高齢者の生活自立度を客観的かつ短時間に評価することを目的に作られたものです。
判定では特に「移動」に関する状態に着目し、日常生活の自立度を4段階のランクで評価します。ランクJは基本的に単独で外出できる状態、ランクA~Cは介助がなければ外出できない状態を示します。

日常生活自立度判定基準
ランク判断基準
生活自立
ランクJ
何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する
1.交通機関等を利用して外出する
2.隣近所へなら外出する
準寝たきり
ランクA
屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない
1.介助により外出し、日中はほとんどベッドから離れて行う
2.外出の頻度が少なく、日中も寝たきりの生活をしている
寝たきり
ランクB
屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッドの上での生活が主体であるが座位を保つ
1.車椅子に移乗し、食事、排せつはベッドから離れて行う
2.介助により車椅子に移乗する
寝たきり
ランクC
1日中ベッド上で過ごし、排せつ、食事、着替えにおいて介助を要する
1.自力で寝返りをうつ
2.自力では寝返りもうたない
STEP
運動能力のテスト

運動器不安定症の診断手順の第2は、運動機能のテストを行って評価することです。運動機能のテストとしては、次の2つが挙げられます。

  • 開眼片脚起立テスト:診断基準 15秒未満

簡単に言えば、片足立ちを1分間行うテストです。運動器不安定症が疑われる場合は、片足立ちの保持時間が15秒未満であることを基準とします。

  • 3m Time up Go test(通称 TUG – test):診断基準 11秒以上

椅子から立ち上がり、3m先の目標まで歩いて再び椅子に座る一連の動作に要する時間を測定する検査です。3m Timed Up and Go(TUG)テストでは、その一連の動作に11秒以上かかる場合に運動器不安定症の疑いがあると判断します。

以上のように、運動器不安定症の診断は、運動器の機能低下を招く11項目の疾患の有無と、実際の運動機能検査の2点を確認して行われます。

運動器不安定症の治療

 運動器不安定症の治療は、原因となる疾患への治療と、歩行やバランス能力の改善を目的としたリハビリテーションの2つに分けられます。

運動器不安定症の原因となる運動器疾患の治療

運動器不安定症の治療では、まず診断で明らかになった「原因となる運動器疾患」の治療が必要です。理由は、その原因疾患が歩行能力やバランスの低下をもたらすことが多く、原因の治療を優先しないと運動器不安定症を改善するのが難しいからです。したがって、治療の第一ステップとして原因疾患の治療を行います。

歩行能力やバランス能力を改善するリハビリテーション

運動器不安定症は、移動や歩行能力、バランスの低下によって閉じこもりや転倒のリスクが高まる状態と定義されます。したがって、治療には歩行能力とバランスを改善することを目的としたリハビリテーション、すなわち「運動療法」が必要です。

運動器不安定症に特に有効な治療法として、「片脚起立運動(通称:ダイナミックフラミンゴ療法)」が推奨されています。ダイナミックフラミンゴ療法は本来、大腿骨頸部骨折の骨密度を改善する目的で考案された療法です。これに大腿四頭筋を強化する膝伸ばし運動を組み合わせることで、転倒リスクを低減する効果が示されています。したがって、現在では運動器不安定症の有効な治療法の一つとして確立されています。

Screenshot

ダイナミックフラミンゴ療法の具体的な方法は、片足で1分間立ちを左右交互に行うだけです。運動回数の目安は1日に3セットで、これを週に3回行う必要があります。その理由は、運動の効果が2〜3日しか持続しないと言われているからです。

周囲の安全に気を付けながら、ぜひやってみてください!

運動器不安定症の予防

 運動器不安定症とは、加齢に伴う運動器の障害が原因で運動機能が低下した状態をいいます。そのため、予防には日常的に運動機能の低下を防ぐ運動習慣を持つことが必要です。言い換えれば、運動不足にならないように普段から続けられる運動を見つけておくことが重要です。おすすめは有酸素運動を取り入れたものとされており、水中ウォーキング、徒歩での散歩、エアロバイクなどが挙げられます。

これらの運動は主に下肢の筋力強化に有効です。目安としては1回あたり15〜20分程度の運動時間を確保してください。運動習慣がない方には負担に感じられることもありますが、日々の取り組みが将来の健康寿命を延ばす大きなきっかけになります。将来の「貯筋」として、ぜひ今から健康のための運動を始めましょう。

監修医師のアドバイス

 運動器不安定症は提唱されてからそれほど時間が経っておらず、まだ馴染みの薄い概念だと言えます。しかし、人生の最晩年まで自立した暮らしを続けられる高齢者を増やすことは、少子高齢化が進む日本にとって重要で差し迫った課題です。限られた人手で増加する高齢者を支えるには、寝たきりに近い状態の方をできるだけ減らし、健康で歩ける高齢者を増やしていくことが不可欠です。

お気軽にご相談ください!

おやま整形外科クリニック仙台院での治療費の例

初診の診察・レントゲン(6方向)・処方箋
1割負担:約900円
2割負担:約1,780円
3割負担:約2,670円
再診の診察・物理療法
(電気治療、ウォーターベット)
1割負担:約110円
2割負担:約220円
3割負担:約330円
再診の診察・運動器リハビリ(理学療法士)
1割負担:約450円
2割負担:約890円
3割負担:約1,340円
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