指が曲げにくい・伸ばしにくい原因は?──整形外科医が解説する【ばね指】

 「ばね指」という病気をご存じですか?別名「弾発指( だんぱつし)」とも呼ばれます。
指の曲げ伸ばしの際に“カクッ”と引っかかるような感覚があり、痛みを伴うこともあります。

実は、この「ばね指」は腱鞘炎が進行した結果として起こることが多く、日常的に手や指をよく使う方にみられる病気です。
腱鞘炎が悪化すると、指が曲がったまま動かなくなり、無理に伸ばそうとしたときにばねのように“ビンッ”と跳ねることから、「ばね指」と呼ばれています。

目次

ばね指とは

はじめに指を動かすメカニズムについてご説明します。

指を動かすためには、前腕にある筋肉と、そこから手や指へと伸びるが関係しています。
前腕の筋肉が伸び縮みすることで腱が引っ張られたり緩んだりし、それに合わせて指が曲がったり伸びたりします。

この腱の通り道で、指を動かす際に腱が浮き上がらないよう支えているのが腱鞘(けんしょう)です。
腱は、骨の表面をなぞるように腱鞘によって押さえられており、そのおかげで筋肉の力を効率よく指先に伝えることができます。
イメージとしては、腱鞘というトンネルの中を腱が滑らかに出入りしているような状態です。

腱鞘は指の中にいくつか存在しますが、特に指の付け根付近では腱に負担がかかりやすく、炎症を起こしやすい部位です。
この部分の腱鞘や腱が炎症を起こすと腱鞘炎となり、さらに進行して腱が肥厚して腱鞘に引っかかるようになると、ばね指が生じます

ばね指の症状

 先ほどご説明したとおり、指の付け根にある腱鞘と腱が使い過ぎなどによって炎症を起こすと、いわゆる腱鞘炎になります。
この腱鞘炎の状態では、腱の動きがスムーズでなくなり、痛み・腫れ・熱感などの症状が現れます。
特に朝方に症状が強く出やすく、反対に日中に指を動かしているうちに軽くなることも少なくありません。

腱鞘炎が進行すると、腱が次第に厚くなり、腱鞘の中でスムーズに動かなくなります。その結果、腱が引っかかるようになり、指を動かすと“カクン”と跳ねるようなばね現象が現れます。これがばね指の代表的な症状です。
さらに症状が悪化すると、指が曲がったまま動かなくなることもあります。

放置は危険です!

ばね指の原因

 ばね指は腱鞘炎が原因で起こるため、家事・スポーツ・仕事などで手をよく使う方に多いのが特徴です。
編み物などの手芸や、ピアノなどの楽器演奏も同様に手指を酷使するため、発症しやすい傾向があります。

また、妊娠・出産前後の女性や更年期の女性にも多くみられます。
これは、エストロゲンという女性ホルモンのバランスの変化が関係していると考えられています。

さらに、糖尿病・リウマチ・透析治療中の方にも発生しやすいことが知られています。

発症しやすい部位は親指や中指が多く、次いで薬指・小指・人差し指にもみられます。

ばね指の診断

 各指の付け根が腫れたり、押すと痛みを感じたりする場合は、腱鞘炎が疑われます。さらに腱鞘炎が進行して腱が腱鞘に引っかかり、「ばね現象」と呼ばれる動きを示すようであれば、診断は比較的容易です。糖尿病、透析、リウマチなどの患者さまでは、1本の指に限らず複数の指に症状が現れることもあります。

ばね指かも⁉今すぐできる簡単セルフチェック

ばね指の可能性があるか、次の項目を確認してみましょう!

  • 指の付け根(手のひら側)に痛みや熱感がある
  • 指を曲げたり伸ばしたりする動きがスムーズにできない
  • 特に朝起きたときに指がこわばり、曲げにくい
  • 指が曲がったまま戻らず、伸ばそうとすると「ビンッ」と跳ねるような感覚がある

上記の項目のうち一つでも当てはまる場合は、ばね指の可能性があります。早めに整形外科を受診しましょう。

ばね指の治療

 ばね指の治療には、安静、マッサージ、薬物療法、注射、そして手術といった方法があります。ここでは、それぞれの治療について詳しくご説明します。

1. 安静

ばね指は指の使いすぎが原因の一つと考えられるため、まずは安静を保つことが大切です。必要に応じて「シーネ」と呼ばれる添え木を使用する場合もあります。可能であれば、仕事や家事などの手を多く使う作業を控え、手指をできるだけ休ませるように心がけてください。実際には難しい場合もありますが、できる範囲で安静を意識しましょう。

2. マッサージ・ストレッチ

痛みのある部分を軽く押したり、やさしくマッサージしてみましょう。さらに、指をゆっくり曲げ伸ばしすることで症状が和らぐ場合もあります。ただし、強い痛みがあるときに無理に行うのは危険です。整形外科の医師と相談しながら、痛みのない範囲でストレッチやマッサージを行うようにしましょう。

理学療法士によるリハビリも、より効果的ですので
お気軽にご相談ください!

3. 飲み薬・貼り薬・塗り薬

痛みのある部位に湿布や塗り薬を使用し、炎症を抑えます。炎症が落ち着くことで、痛みの軽減も期待できます。

4. 注射

1~3の治療で改善が見られない場合は、注射治療を検討します。注射には、局所麻酔薬の「キシロカイン」と、炎症を抑えるステロイド剤「ケナコルト」を併用することが一般的です。効果は非常に高く、注射後には痛みが軽減し、そのまま帰宅できるケースも多くみられます。効果はおよそ3か月から半年ほど持続します。

ただし、注意点として、同じ指に繰り返し注射を行うと腱に負担がかかり、腱が損傷するおそれがあります。そのため、同じ指への注射は通常2回程度までにとどめるのが一般的です。

5. 手術

注射で症状が改善しても、半年ほどで再発し、さらに半年後に再び症状が出るような場合、3回目の注射は腱への負担が大きくなるため、通常は行われません。そのようなケースでは、手術による治療を検討します。

行われるのは「腱鞘切開術(けんしょうせっかいじゅつ)」という手術で、局所麻酔下で日帰りで実施することが可能です。簡単に言うと、腱を圧迫している腱鞘の一部を切開し、腱がスムーズに動けるように通り道を広げる手術です。切開する範囲はごく一部のため、指の機能に支障はありません。手術後1〜2週間ほどで抜糸を行い、治療は完了となります。抜糸とは、手術の際に縫合した傷口の糸を取り除く処置のことです。

費用は、おおよそ3割負担の方で1万円程度とお考えください。なお、この手術は加入されている医療保険や生命保険の内容によって、治療費が補償される場合もあります。事前に保険会社へ確認し、適用の有無を相談しておくと安心です。

ばね指の予防

 ばね指を完全に防ぐことは難しいものの、日常的なストレッチや食生活の工夫によって予防できる可能性があります。ばね指を改善するストレッチとしては、

  • 手をまっすぐ伸ばし、片方の手で反対の指をそらせる
  • 手首を軽く曲げ、手のひらの下側と指先でブロック状のものを挟み、押し合う

などが効果的です。また、女性の方は「ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)」の原因の一つとされるエストロゲン(女性ホルモン)の低下を防ぐことも大切です。バランスの取れた食事や適度な運動を心がけ、ホルモンバランスを整えるよう意識しましょう。

そのためには、食事と運動の両面から体を整えることが大切です。

食事面では、納豆や豆腐などの大豆製品に加え、ビタミンEやB6を多く含む食品――アーモンド、アボカド、カツオ、レバーなどを意識的に摂るようにしましょう。これらはホルモンバランスを整え、腱や筋肉の健康維持にも役立ちます。

また、運動面では、日光を浴びながらのウォーキングなどが効果的です。日光浴によって体内のホルモンが活性化され、予防にもつながります。

もし「最近、指の付け根が痛いな…」と感じたら、これらのストレッチ・食事・運動を意識しつつ、できるだけ手を休ませて安静に過ごすようにしましょう。

監修医師のアドバイス

 ばね指は、手や指の使いすぎによって生じる腱鞘炎が進行した状態です。指の付け根に痛みが出たり、動かすと“カクン”と引っかかるような感覚があるのが特徴で、特に朝のこわばりを訴える方が多くみられます。

早期であれば、安静・ストレッチ・湿布や塗り薬などの保存的治療で改善することが期待できます。症状が強い場合にはステロイド注射が有効で、それでも再発を繰り返す際には、**腱鞘切開術(けんしょうせっかいじゅつ)**という日帰り手術で根本的な治療が可能です。

予防のためには、日常生活の中で次の3つを意識しましょう。

  • 指や手首のストレッチを習慣にする
  • 大豆製品やビタミンE・B6を含む食事を心がける
  • 無理せず手を休ませる時間をつくる

これらを継続することで、腱や関節への負担を軽減できます。
「指の付け根が痛む」「カクンと動く」といった症状を感じたら、無理をせず早めに整形外科を受診しましょう。

お気軽にご相談ください!

おやま整形外科クリニック仙台院での治療費の例

初診の診察・レントゲン(6方向)・処方箋
1割負担:約900円
2割負担:約1,780円
3割負担:約2,670円
再診の診察・物理療法
(電気治療、ウォーターベット)
1割負担:約110円
2割負担:約220円
3割負担:約330円
再診の診察・運動器リハビリ(理学療法士)
1割負担:約450円
2割負担:約890円
3割負担:約1,340円
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